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本日、2021年3月12日、185系の定期運用離脱をもって都内からMT54が消えた。
これは僕にとって、人生の一つの節目に当たる。
MT54とは、国鉄車に広く使用されていた直流モーターである。
現代、モーターには回転速度を制御するためにVVVFインバーターなどの電子回路が入っている。しかし、MT54は電圧の増減によって動かす、極めてシンプルなモーターなのである。
MT54は、ただひたすら音程を上げていく。「ウォォォォ」と重低音で始まったモーターが、加速するにつれて「グゥゥゥゥン」と脳髄を刺激する甲高い高音に変わっていく。一方、最近の電車は、加速する度に音程が下がったり、変わらなかったり、電子回路によってメロディアスな響きになる。
僕は、MT54の一途な響きが好きだった。
特に、高速で走行するときに最高音でモーターを唸らせて過ぎ去っていく姿。
中学生の頃、鉄道に凝っていた僕は「18きっぷ」や「土日きっぷ」などの企画切符を握りしめて、始発の普通列車で全国各地を駆けまわる、典型的な鉄道マニアだった。
マニアにとって、始発列車は旅程を広げる夢の列車だ。常磐線沿線で育った僕が、始発列車で東京に向かうと最初に出会うのが、日暮里の東北本線を過ぎ去る489系 急行「能登」。午前6時、静まり返った東京を489系のMT54が甲高い轟音を響かせて過ぎ去っていく。過ぎ去ったあとも、重厚な空気があたり一面に漂いつづける。この響きが東京に1日の始まりを告げ、間もなく喧騒が訪れる。素敵な旅のファンファーレでもあった。
しかし、時代の流れとともにMT54を搭載した国鉄車は都内から姿を消し、使い勝手の良い185系だけが、細々と都内で活躍を続けていた。
そんなことから僕は、東京で185系を見かけるたびに立ち止まり、かつての鉄道体験に思いを馳せた。489系 急行「能登」、15両で疾走するかぼちゃ色の115系、カラフルな205系たち……目を瞑って185系の音を聞けば、MT54を積んで都内を駆けた国鉄車両たちにいつでも出会うことができた。だがとうとう、古き良き時代の終焉である。
切ないことに、世の中は日々便利に、快適に進化していく。役目を終えたものたちは消えていく。勿論正しいし、その快適さを噛み締めながら日々生きている。しかし、こうしたアップデートのなかで、自分を形づくってきたカケラも日々剥がれ落ちているのだと思うと、なんとなく立ち止まりたくなるこの頃である。
<TEXT /お雑煮>