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ー前編はこちら:片道1800円。「ジャンボフェリー」で行く、徳島ー神戸の船旅ー
フェリーは高松港を出ると、瀬戸内の島々を縫って進んでいく。僕は船内に戻って、くつろげる場所を探すことにした。
ジャンボフェリーにはラウンジ、洋室座席、雑魚寝の和室と、サウナ付きの大浴場が備えてある。個室ベッドや指定席を使う場合は別料金がかかるが、それ以外はすべて乗船券だけで利用することができる。
乗船時に一緒になった乗客たちは、それぞれ快適な場所を見つけて、各々の時間を過ごしてた。洋室でパソコンを使うビジネスマン、ソファに腰掛けて談笑をしている老夫婦、ラウンジでポーカーをしている大学生、お座敷で仮眠を取るドライバー……。船内を散策していると2階の売店で足が止まり、たこ焼きを頼むことにした。
ジャンボフェリーの売店は立派で、船内グッズや菓子ものなどのお土産フロアと、軽食用のカウンターが用意されている。ここではアメリカンドッグ・たこ焼きなどの軽食、本格的なうどんまで食べることができるのだ。そのどれもが良心的な値付けで、本州と四国を行き交うドライバーの癒しの場所となっている。
風が恋を運ぶ、海を遠く渡り……
15時過ぎ、フェリーは小豆島に立ち寄る。港に近づくと、船体をぐるりと90度左へ向け、肩を並べるように接岸する。
「風が恋を運ぶ〜海を遠く渡り〜二人を結ぶ・ジャンボフェリ〜」
接岸時に鳴るジャンボフェリーの歌は、淡く暖かい恋の歌。港にタラップが降りる。
オフシーズンなのか、小豆島で降りたのは女子大生と思しき4人組のみ。連泊するのだろうか、スーツケースを転がしながら去っていった。フェリーは彼女らを降ろすと神戸港へ向かって再び錨を上げる。
4時間の船旅。和室で仮眠を取ろうか
売店をほろ酔い気分で後にする。たこ焼きはフワフワで、これまた美味しいものだった。電子レンジで加熱した簡単なものだが、一粒一粒が大きくて、タコの切り身もしっかり大粒。素朴な味わいだが、船旅をぐっと引き立てる。
満たされた気分を抱えたまま、3階のお座敷に上がって仮眠を取ることにした。
スニーカーを脱ぎコンセントに充電器を挿し、リュックサックを枕にして寝転がるとたちまち眠気が襲ってきた。それもそのはずで、僕は昨晩まったくと言って良いほど睡眠を取っていなかった。
先日宿泊した徳島のビジネスホテルは1泊1000円。安いなりには訳があって、寝床はパーテーションで仕切られた空間に合皮のリクライニングチェアが置いてあるのみ。椅子に腰掛けるとギイギイと軋み、背もたれが深くて身動きも取れない。大浴場のサウナで身体をほぐしながらようやく眠りに落ちたのもつかの間、5時半にチェックアウトを済まし、6時発の高徳線で高松へ向かったのだった。
終わる旅もあれば、始まる旅もある
16:30ごろ、スマホが鳴り目を覚ます。
ジャンボフェリーは神戸に到着する60分ほど前に明石海峡大橋を通過する。このハイライトを目に収めたいと、アラームをかけていたのだ。
甲板に登ると太陽は瀬戸内海を黄昏色に照らし、水平線に暮れようとしている。ビュウビュウと潮風が取り巻き、そぞろ乗客が登ってきた。吊り橋をくぐり抜けたころ、その景色を眺めていた大学生と思しき三人組が語り出す。
「いやー、俺、東京久しぶりだわ」
「浅草とか、修学旅行以来だな」
「2日目どこ行こうか」
「俺、下北沢行きたい。古着がみたい」
「いいね、下北沢。行くか……」
僕はこれから東京へ戻るが、彼らはこれから東京へ向かうのだ。始まる旅があれば、終わる旅もある。ジャンボフェリーは、それぞれのストーリーを運んでいる。
夜道の足音遠くから聞こえる、ナイトクルージング
日没を過ぎると、あたりはたちまち深い藍色に溶けていく。
18時20分、フェリーは航路標識の脇をすり抜け、神戸港へ入港する。僕は再び甲板に上がると、視界に揺らめく神戸の灯にたちまち僕は、かつて訪れた上海を重ねていた。
神戸の街にも上海同様、東洋の慰留地特有の空気が詰まっている。間違いない、ここは愛と欲望の街。この船上からは波音しか聞こえないが、あの街に降り立てば人の数だけの喧騒があるだろう。船上の夜景は、無限の物語を感じとるには充分なくらい、美しかった。
いつの間にかクラムボンのナイトクルージングがこぼれる。
窓は開けておくんだよ、いい声聞こえそうさ。
ナイトクルージング…ナイトクルージング……
<TEXT/お雑煮>
参考HP :ジャンボフェリー公式サイト