リダン文字盤の腕時計が高騰中!なぜ“グレーな”ビンテージ腕時計が値上がりしているのか

投稿日:3月 22, 2021 更新日:

 

中古相場が10万円以上値上がりした、リダン文字盤のデカ薔薇

中古腕時計市場には、「リダン」という専門用語がある。これは、経年によって痛んでしまった文字盤を修復(=リダン)することを指す。古くから腕時計のメンテナンスの一環として取り入れられてきたが、1990年代に入ると、文字盤にブランドのロゴが刻まれた正規店コラボのロレックスなど、希少性の高いモデルが高騰。これをきっかけに、既存のモデルにロゴを書き加えて高額で販売する、悪質なリダンが出回るようになった。

それ以降、リダン文字盤はマーケットに氾濫するようになる。ネットオークションでは、偽物の文字盤&ケースに純正のムーヴメントを組み込んだものを「リダンだが本物」などとグレーな表現で売りさばく業者まで……。いつしか時計フリークの間では「リダン=悪」というイメージが確立されてしまった。

また、ヴィンテージ好きにとってはよりオリジナル性の高い個体の価値が高いため、リダンが施された腕時計は長らく敬遠材料だった。しかし近年、そういったイメージが覆されつつあるようだ。RolexやTudorを筆頭に、リダン文字盤のモデルが値上がりしてるのだ。

2年で10万円値上がり。リダン腕時計のいま

リダン文字盤の代表例として、Tudorの「デカ薔薇」といわれるモデルを挙げることができる。これは1960年代に製造された腕時計で、文字盤にチューダー朝の紋章である薔薇が大きくプレスされている。

この特徴的な見た目から人気が高い腕時計だが、いつからか文字盤を黒く塗り替える「黒薔薇」が流行し、リダン文字盤が出回るようになった。また、偽物や経年劣化によるリダンが多い個体でもあり、オリジナル文字盤は市場にほとんど出回らないとされる。時計店の在庫を探し回っても、あるのはリダンの個体ばかり。そんなこともあり、2010年代まで10万円前半の落ち着いた相場で推移してきた。

しかし2年ほど前から「デカ薔薇」の相場が急騰している。今、楽天市場に出回っている最低相場は、オイスターブレス付きのもので23万円。しかもリダンの個体が、である。この数年でなんと10万円以上も値上がりしたのだ。

もう一つの例としては、RolexのRef.5500 「エクスプローラー・ボーイズ」のリダンモデル。エクスプローラー1は北米向けに、エアキングの34mmケースを使用したボーイズサイズのモデルがリリースされていたが、希少性が高く、エアキングをエクスプローラー1の文字盤に書き換えた悪質な個体が氾濫した。

そういったリダンモデルも、現在の史上最低価格は40万円。同年代のエアキングは35万円程度で買えるので、リダンの文字盤に5万円以上もプレミアがついている。

リダン腕時計にみる、ヴィンテージ腕時計市場の転換期

それではなぜ、いまリダンが高騰しているのだろうか。考えられる理由としては2つだ。(今回は、Rolex,Tudorなど、時計本来の価値の高騰は省く)

1:ヴィンテージ腕時計が大衆化し、デザイン性に価値を置くようになった

個人的に最も大きな理由だと思われるのがこちら。ヴィンテージ腕時計の大衆化だ。日本国内では、2017年ごろからファッション誌がヴィンテージ腕時計を取り上げるようになり、舶来・国産問わず、希少性の高いヴィンテージ腕時計が揃って値上がりした。また、同時期に腕時計ブランドの復刻ブームが重なり、ヴィンテージ腕時計の意匠が再評価されるようになった。

こうしてマーケットが拡大すると、これまで腕時計に興味がなかった人々の価値観も、相場に反映されるようになる。その結果、リダンのデカ薔薇やエクスプローラーボーイズなど、オリジナル性は低いがデザイン性の高い腕時計が価値を高めるようになったのではないか。

一般大衆にとって、腕時計の経年劣化は汚れでしかないだろう。汚いオリジナルよりは、デザインが良くて綺麗なリダンを選ぶかもしれない。ただリダンというだけで敬遠していた時代はもう、終わりつつあるのだ。

2:トリチウム塗料が禁止となり、リダン文字盤の価値が上がっている

もう一つ考えられる理由として、トリチウム塗料を使った文字盤の価値が上がっている可能性がある。「オトナの時計投資:買い時?!文字盤修復した“リダン”ロレックス“復権”の可能性」(2020年3月12日/ガジェット通信)では、針や文字盤の夜光塗料に使われているラジウムやトリチウムなどの放射性物質が全面禁止になったと述べられている。これから先、リダン文字盤であってもトリチウム夜光の文字盤は制作出来なくなってしまうため、リダンであっても精巧な文字盤であれば価値がつくようになったのかもしれない。

このような市場価値の変化は、長くからの腕時計ファンにとって想像もつかなかったことであろう。市場が大衆化したいま、全く価値を見出されていなかったモデルが急に価値を高める可能性もありうる。いま、ヴィンテージ腕時計市場は、大きな転換点を迎えているのだ。

<TEXT:お雑煮>

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