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2020年ごろから、Yahoo!オークションなどの個人間売買サイトで異彩を放つ"セイコー製腕時計"が出品されている。
セイコーカスタムは“SEIKO”を名乗ってよいのか?

ヤフオク!出品されているセイコーカスタム
外見はロレックスのサブマリーナに酷似しているが、ダイアルには堂々と「SEIKO」と書かれているのである。もちろん、このような腕時計をセイコーは発売していない(90年代に7S26を搭載して発売していたダイバーズウォッチを除いて)。社外品のケースにセイコー製のムーヴメントを載せた、いわゆる「カスタム」「MOD(モディファイ)」と言われる時計である。
これらのサブマリーナ風のケース・文字盤は、市場に出回り始めた当初はレパートリーの限られたものであったが、今やCOMEXのロゴに寄せた「PROSPEX」表記や、赤サブ、リューズガードなしのケースなど、時計好きもうなるニッチな領域に達している。
さて、これらのセイコーのカスタム・MOD品は果たして、セイコーと呼べるシロモノなのだろうか……?個人的感覚から言わせてもらうと、答えは「否」だ。その理由はいくつかある。
1:そもそも"カスタム"していない
これらのカスタム品の機械本体は主に、NH35というセイコーインスツルの外販用ムーヴメントを使用している。NH35はセイコーが自社で使用している4R35、4R36と同等品だが、主に他社ブランド向けのムーヴメントだ。
つまり、セイコーの腕時計をカスタムしたものではなく、セイコーの機械を使ってイチから組み上げた「セイコー風の新品」なのである。
本来、NH35を使う時計は自社のブランド名を名乗るわけで、サブマリーナ風のセイコーカスタムは他人の下駄を履いた贋作と言って差し支えないだろう。
2:セイコーの部品比率が極端に少ない

Tudorのサブマリーナ(画像はイメージです)
ひと昔前、セイコーのSKXダイバーズ(通称:ボーイ)や63系ダイバーズを使ったカスタム品が流行った。これは時計の針や文字盤を入れ替えたものであり、ベースとなる時計のケース・ベゼル・機械などは保っている。(一部、社外品のケースも出回ったがここでは目を瞑る)
しかし今回はベースとなる個体すらないのだから、遥かにタチが悪い。セイコー純正部品はNH35のみ。それ以外の文字盤、ケース、針、ベゼル、竜頭……すべて社外品なのである。
さらにロレックスの下駄まで履いたセイコーカスタム。もはやアイデンティティを一切感じない。
ロレックスは買えないが、サブマリーナのデザインを身につけたい。偽物だと恥ずかしいけど、オマージュ品はダサい。セイコーのロゴが付いていると洒落っ気を感じるからOK。そんな心身ともに貧困な消費者心理を満たした時計といえる。
3:コピー品を助長している
ここからはあくまで憶測ではあるが、個人的に最も問題視している点でもある。セイコーカスタムの外装パーツは主に中国・香港製だが、これらの部品はスーパーコピーにルーツがあるのではないか。
2000年代の初頭から出回るようになったハイブランドのスーパーコピー。特にサブマリーナタイプは需要が大きく、スーパーコピーの最大勢力であった。
いつの間にかNOOBやJFなど、精巧なスーパーコピーを手がけるファクトリーが生まれ、それぞれV3,V5,V7などと、本物に近い修正がされるたびにアップグレードしていった。
しかし2020年ごろから、これらのファクトリーからの新作リリースが明らかに減った。スーパーコピー愛好家(?)に人気のファクトリー・NOOBが生産終了したと話題になったのもこの頃である。
背景には中国国内での知的財産権に関する取り締まり強化がある。同年には「2020年全国知的財産権侵害および模倣品製造販売摘発活動要点」を打ち出し、模倣品の排除が本格化している。ちょうどこのタイミングでスーパーコピー品に入れ替わるように頭角を表したのが、セイコーカスタムなのだ。ロレックスのコピー品はアウトだが、セイコーのカスタムパーツならグレーという解釈か。
つまりこれらの時計は、規制でダブついたスーパーコピーのケースを、NH35用に再加工したものではないか。オークションサイトに出回っているサブマリーナ風のセイコーをよく見ると、セラミック風ベゼルに刻印された数字の真っ白な塗料が、V3,V5など、一昔前のスーパーコピーの特徴に酷似している。しかも悲しいことに、グレードの低いスーパーコピーの特徴に合致するのだ。
腕時計は想像力を持って楽しむべし
腕時計はあくまで嗜好品であり、それをつける人が良ければ良い、というのは否定しない。ただ、このカスタム品をファッション誌の編集長がSNSで堂々と紹介したり、カスタム品のコミュニティが形成されているのを見ると、どうもこの時計がもつ本質、負の側面が知られていないのではと感じてしまうのだ。
筆者は「ブランドの社員さんに見せれない時計は持たない」をモットーに時計蒐集をしている。おそらくセイコーカスタムをセイコーの社員さんに見せても悲しまれてしまうだろう。腕時計は人となりを現すアイテムなのだから、外から見たらその時計がどう見えているのか、想像力を持って楽しんでいただきたい。
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<TEXT/お雑煮>