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「サードダイバー」こと、セイコーの63系ダイバーズウォッチには、ごく少数、スキューバプロとのダブルネーム個体「Scubapro450(スキューバプロ450)」が存在する。
幻のダイバーズウォッチ「スキューバプロ450」
噂によると、スキューバプロ450の製造本数は100本にも満たないと言われており、当時は一部のダイビングショップのみで取り扱っていたことから情報も乏しく、その価値が評価され始めたのはすでに終売となってからであった。
しかし、このような背景から巷では、既存の文字盤にスキューバプロのロゴを入れたものや、アフターマーケットのカスタム文字盤などが大量に流通し、オリジナルの個体を探すのは至難の技だ。一方でオリジナル個体は高騰を続け、2022年時点で25-30万円台、当時の付属品が揃ったものは50万円で売却されている。
そこで今回はスキューバプロ450の真贋を見分けるポイントを整理し、考察してみたい。第1章は真贋において確度の高いチェックポイント、第2章は製造年月、ロットに関する自分なりの推察である。この記事が、もし誰かのお役に立てれば幸いである。
スキューバプロ450、「450」はなにを指している?

ダイビングで使われるダイブプランナー。こちらはPADIのもので、メートル表記
この450という表記には諸説ある。ひとつは、サードダイバーの150m防水表記を海外のダイビングで使われる水深単位・フィートになおしたという説。ダイブコンピューターのない時代はダイブプランナーで潜水時間を測定していたが、減圧症やシリンダー容量のリスクなどから、測定に必要な単位は繰り下げて計算することになっている。150mは正確には492.126フィートだが、この考えに則って450としたのではないか。
もうひとつは、防水を450mに引き上げたという説。防水性能を確保するために専用部品を使っているといわれているが定かではない。ただ、後年にリリースされた「スキューバプロ500」は50気圧防水(500m防水)であることから、こちらも捨てきれない。
第1章:スキューバプロ450、真贋のチェックポイント

6306-7001。カレンダー枠はスラントしている。
スキューバプロ450の真贋を見分ける上での重要なチェックポイントを振り返る。
まずはじめに、スキューバプロ450は国内向けのリファレンス6306のみという点だ。スキューバプロ日本支社によって日本国内のダイビングショップで販売されていたため、海外向けのリファレンス6309のスキューバプロは存在しない。
6306と6309の違いは大きく二つ。ひとつに6306のカレンダーは「日・英」の2段表示、6309のカレンダーは「英・中国語」「英・スペイン語」「英・アラビア語」いずれかの2段表示である。もう一つに、6306は21石ハック(秒針規制機能)付き、6309は17石ハックなしである。
次に、文字盤の裏側に2桁の赤いスタンプがある点である。これが最大のチェックポイントといっても良い。これまでに確認できている、付属品やスキューバプロのウレタンベルトが付いたオリジナル個体は全てこのスタンプが存在しており、スタンプがあるものがオリジナル、ないものは贋作と言い切っても良い。
他、細かい点としてはカレンダー窓枠のディテールがある。6309のオリジナルダイアルは枠がスラントしている。
巷で言われている「6309-7000のスキューバプロは存在しない」、6時位置のアルファベットが「JT」などという点に関しては、今後異なる個体が出る可能性もあるため、この記事では触れないでおく。
第2章:文字盤裏のスタンプから製造年月を推察してみた

とある個体の文字盤。オリジナル個体には文字盤裏に赤いスタンプが入る
第1章で簡単に触れた「赤いスタンプ」についてもう少し掘り下げてみる。これまで、このスタンプはシリアルナンバーであるという説があった。しかし、時計ショップやオークションサイトで取引されたオリジナル個体の情報を調べてみると、スタンプの番号が重複しているもの、また、そのスタンプの種類が非常に限られたものであることがわかってきた。
そこで裏蓋のシリアルナンバーと照らしながら、スタンプの規則性と詳しい製造年月を推察してみた。
まず仮定として、このスタンプは文字盤を製造した年月を指している。筆者が確認できたスタンプの種類は「83」「86」「8D」「96」の4種類。一見、製造された100本のうちのシリアルナンバーのようだが、8Dのスタンプに疑問符が付く。
ここで、セイコーが当時使っていたシリアルナンバーの規則性に当てはめたらどうだろう。セイコーはシリアルナンバーの1桁目に「製造年の下4桁」、2桁目に「製造月」を使っていた。製造月は1-9月までが数字、10月、11月、12月はそれぞれO、N、Dである。
これにスタンプを当てはめると次のようになる。
83=1978年3月
86=1978年6月
8D=1978年12月
96=1979年6月
スキューバプロ450の製造は推定78-79年といわれているため年代も合うし、セイコーがダイアルを管理しやすいようにこの規則を使ったと考えると納得がいく。つまり、スキューバプロ450は複数ロットの個体が納入されていた可能性が高いのである。
さらに筆者が確認できている、オリジナル個体のスタンプ・裏蓋シリアルから、製造年月の組み合わせを整理してみた。すると下記のようになる。
「83」の文字盤=1978年3月製(2本)
「86」の文字盤=1978年8月製(2本)
「8D」文字盤=1979年1月製
「96」文字盤=1979年4月製、79年7月製
いずれも文字盤の製造年月と前後2ヶ月のズレが生じているが、文字盤のロットを跨ぐ(例:「83」の文字盤で78年6月以降の個体を使っているなど)ズレがないことを考えると違和感はない。製造本数が少ないことから考えるに、先にダイアルを刷り、手作業で組み直していた可能性もあるだろう。
製造本数が100本として、4ロットでそれぞれ25本。そのうち「83」「86」は複数個体の製造年月が一致したので、この年月の個体が正解と見てよさそうだ。「96」はブレがあるが、6306は79年ごろに廃盤となるため、余剰在庫を使ったと考えると腑に落ちる。
製造本数が100本以上の可能性もある
これらのことから、「スタンプは文字盤を製造した年月を示している」「スキューバプロ450には複数のロットが存在する」「オリジナル個体は1978年3月製・1978年8月製・1979年1月製・1979年4月製・79年7月製である」ということが推察できる。実際、オリジナルとおぼしき個体のシリアルナンバーは全て条件と一致しているのだ。
一方で深読みすると、"製造本数100本未満"という噂が「文字盤スタンプがスキューバプロ450のシリアルナンバーである」という仮定から来ていたのだとすれば、今回の規則では三桁の番号は存在しないのだから、この噂も覆ることになる。つまり、「スキューバプロ450は100本以上製造されていた可能性もある」ということである。
現に、今なおオークションではスキューバプロ450のオリジナル個体が出品されているし、Instagramをみれば、複数のユーザーがそれらしき個体を投稿している。酷使されたであろうたった100本のダイバーズウォッチが、これほど現存しているのは不自然ではないだろうか。
もっとも、大量につくられたとも考えづらく、貴重な時計であることには変わりないのだが。
もちろん、今後もより確度の高い情報が出てくるかと思うが、現時点でのひとつの仮説として書き残しておきたい。
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<TEXT/お雑煮>