Tudor 79280 クロノタイムは買い?安っぽい?「ポストデイトナ」高騰に思うこと

投稿日:4月 4, 2021 更新日:

昨今のロレックスの高騰は底知れない。あの時、50万だったサブマリーナデイトが100万を超えそうで、あの時、30万だったエクスプローラー1は70万の大台に達しようとしている。そんな中、かつてのロレックスの良心を残しているのが、90年代までのオールドチューダー(チュードル)である。

ロレックスの息を継ぐ、チューダー79280

チューダーはロレックスのディフュージョンブランドとして知られる。元々はロレックスと別の会社だったが、50年代に買収され、ロレックスのお家芸である「オイスターケース」など、ロレックスが持つ技術を大衆に広めるべく、弟分としてその役割を担ってきた。ムーヴメントはETAなど凡庸機でありながら、外装にはロレックスの純正パーツを使用する。そんな程よい温度感が受け、海外を中心に支持を得てきた。2000年代に入ると、チューダーは独自のラインアップに注力するようになり、ロレックスの純正パーツの使用を取りやめ、自社ラインでの腕時計生産を始める。現在百貨店で見かけるチューダーの腕時計は、自社の世界観で構成されたものであって、ロレックスと別物の腕時計と考えて良いだろう。

2010年代、相次ぐ新作発売によって空前のロレックスブームが到来し、スポーツモデルを筆頭にロレックスの全モデルの価値が高騰する。すると、0年代の純正ロレックスパーツを使用したチュードルが併せて注目されるようになる。ロレックスの人気モデルはスポーツモデル・クロノグラフに集中するので、必然的にチューダーの類似モデルの価値が上がることになる。特に、チューダー・クロノタイム 79280。このモデルは昨今のロレックス人気で価値が急騰した、“狂気”に他ならない。

79280は、ロレックス・クロノグラフの雰囲気を残すチューダーの最終世代にあたる。外装はオイスターケースを彷彿させる滑らかなラグに、収まりの良い39mmケース。文字盤には、オールドロレックスを彷彿させるシンプルな3レジスターを備える。現代の腕時計にみられる厚ぼったい装飾は省き、端正なサンレイに細身のバーインデックス。バルジュー7750を搭載しているため縦目ではあるが、その佇まいはまるでデイトナそのものだ。

79280がリリースされた1995年から翌96年までは先代79180の装飾を受け継ぎ、リューズ・裏蓋にロレックス純正パーツ、文字盤には「OYSTER DATE」の表記が施されていた。当時の新品定価はせいぜい25万程度だったが、このモデルは中古で70万円を下回らない人気モデルになった。後年モデルも現在では40万を割ることはない。

富裕層のためのマーケットに変貌する、ロレックス

すっかり高嶺の花となりつつある79280クロノタイムだが、気になるのは、このモデルが本当にその価値にふさわしいモデルか否か、という話である。これは主観だが、筆者は79280を、ロレックスパーツを使用した前期型、ロレックスパーツを使用していない後期型と2本所有していた。正直なところ、前期も後期も質感はほとんど変わらない。変わった点といえば、せいぜいブレスレットの形状と、リューズ・裏蓋の刻印くらい。それを除けば、中堅ブランドの質感で所有感もいまひとつ。むしろ3連の巻きブレスは真ん中のコマが中空なので安っぽく感じるほどだ。

79280はもともとロレックスのディフュージョンという、チューダーの正当なコンセプトに則った時計で、質感がそれ相応であった。また、それが79280の良さでもあった。しかし、ロレックス然とした佇まいと雰囲気だけで、年々価値を高めているのだ。これは“狂気”というに他ならない。既に79280は廃盤であり、Tudorの現行ラインアップにクロノタイムはない。これから市場の流通数を減らしつづけ、その度にまた価値を高めることになるだろう。

デイトナが青天井の今、愛好家にとってクロノタイムは、ロレックスの息を継ぐクロノグラフ最後のオアシスである。しかし、希少性のみを追い求める昨今のマーケットには、正直ついていけない。ブランディングのための流通調整の影響も大きいだろう。僕はクロノタイムも好きだし、チューダーもロレックスも好きだが、いまや時計としての楽しみから逸れた場所にいる気がして、なんとなく心苦しい。

おそらく79280は、これからも価値を高め続け、100万円の大台に達するかもしれない。欲しい人に欲しいロレックス・チューダーが行き届いて、誰もが平等に楽しさを分かち合う世界は、もう遥か昔に終わってしまったらしい。

<TEXT /お雑煮>

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