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フリーランスデザイナー・小磯純奈さん
「好きなことを仕事にする」。人によっては夢のような言葉に聞こえるだろう。
しかしその夢は、きっかけと覚悟さえあれば誰しもが実現できるものかもしれない。
今回はフリーランスデザイナーとして活動する小磯純奈さん(Twitter:@sumi_Daban)にインタビュー。小磯さんの前職は、コンサルディング会社の営業マンだ。なぜ会社員の道を捨てて、未経験のデザイナー業へ転身したのか。小磯さんが“好きなことを仕事にする”までの道のりを聞いた。
会社員からフリーランスデザイナーへ
小磯さんはフリーランスデザイナーとして活動を始めて、5か月目を迎える。デザイナー活動の原体験は、幼少期にさかのぼる。
「今は人と話したりスポーツをするのが好きな人間ですが、小さいころは内気で大人しく、スポーツも人と遊ぶのも苦手で、いつも絵を描いて過ごしていました」
幼少期から絵を通じて自己表現をしてきた小磯さん。しかし、イラストやデザインを職業にしようと決意したのはつい最近のことだ。現在の活動に至るまでに、大きく3つのキャリアの転機があった。
一つ目の転機は大学時代、当時在籍していた商学部のカリキュラムでバングラディシュを訪れた時のことだ。
「バングラディシュのその活気や熱量に魅了され、新興国の経済事情に興味を持つようになりました。ちょうどこの頃、様々な経営者の方と交流があったこともあり、いつかはバングラディシュで事業を展開したいという、経営サイドへの思いが強くなっていたんです。その後は日系のコンサルティングファームに就職をしましたが、どうしてもバングラデシュへの憧れが捨てきれず、白紙の状態から現地企業にアポをとり、事業計画書を携えてヒアリングへ向かったりもしました」
2019年7月、二つ目の転機が訪れる。海外事業の夢を聞いた知人から、中国・深センでの仕事の誘いを受けた。
「前職を退職して、バングラディシュ行きを検討していたタイミングでした。知人からの強いアプローチで、中国に飛んだんです」
しかし、中国への期待は直ぐに落胆へと変わる。深センで待ち受けていたのは、バングラデシュの興奮とはかけ離れた、目的意識を見出せない日々。年長者や移住経験に長けた人々の言葉を浴び続け、精神的に追い詰められていった。「自分は何のために人に誘われて中国に来たのか」、「自分は己の人生を生きているのだろうか」、そう自問する日々が続いた。
「今に振り返ると、あの頃は“自分がどうしたいか”という思考が停止しており、物事を俯瞰してみれていなかったなと思います。退職して、バングラデシュ行きも諦めて渡航したので、『中国で何か一つは実績を成さないともったいない』というサンクコスト的な考えもよぎっていました。 ただそれでも、このまま中国で働き続けたとして、充実した生活を送っている自分が想像できなかったんです。このとき、自分の人生について改めて向き合うようになりました」
自分を犠牲にすることは向いていないけど、身体の内から湧き上がる物事には実力以上の力を発揮できるし、努力できる。人の期待に応えるためではなく、自分のための人生を生きたい。そう考えた小磯さんは、改めて白紙の状態からキャリアを考えることにした。
深センからの帰国後、「自分が死ぬときに後悔することは何か」を考えつめた。その結果、頭に浮かんだのはたった一つのシンプルな答えだった。「絵を描くこと」。
そして3度目の転機となる、2020年1月。小磯さんは業界未経験からデザイナーへ転身、デザインチーム「御純(OSUMI)堂」を立ち上げた。
デザイナーへ転身。好きなことを仕事にして気づいたこと

小磯さんのデスク
現在、小磯さんはロゴデザインやディレクティングなど様々な案件をこなす。しかし、これらの知識はすべて独学によるものである。レッスン動画やデザイン書籍を調べて、技術を習得したそうだ。
「絵を描くことが好きだったので、空間をイメージしたり、全体像を掴むのは比較的得意な方だったと思います。スキルを習得するには経験量と質が大切だと感じているので、感覚(インプット)を掴んだら、すぐに実践(アウトプット)する、といった作業を繰り返していました」
とはいえ、立ち上げ当初は仕事の要領がつかめず、手探りの毎日が続いた。
「動画や書籍では技術的な細かい部分の解決方法がわからなかったり、調べた通りに作業しても解決できないことが出てきました。このような困難は、名刺交換をさせていただいたデザイナーさんに直接ご連絡したり、SNSなどを利用して解決方法を探したり……デザインに詳しい方々に、一緒に解決策を考えてもらったりしました。 契約書の作成なども、弁護士に依頼するような余裕はなかったので、専門書を買って自分で勉強していました」

OSUMI堂instagram(@osumidou)より
初仕事は、似顔絵の作成依頼。その後、案件をこなしているうちに、ロゴや名刺など大きな案件を依頼されるようになった。現在、小磯さんのポートフォリオにはスタイリッシュなものからポップなものまで、ジャンルに縛られない多彩な作品が並ぶ。
「業界未経験から仕事をいただくためには、まだまだ経験者に勝てないことは、認識していました。なので、私自身できる限り相手の立場に立って考えたり、相談に乗ってデザインすることを意識しています。前職のコンサル業で身についた、大局的な視点や目的意識・論理力も役立っていると思います」
フリーランスとして活動を初めて5ヶ月。デザインという仕事を通じて、小磯さんには、前向きな変化が現れるようになった。
「今までは組織から逸脱することに不安を感じていたものの、いざ飛び出してみると、自分の行動や思考次第でこんなにも状況が変わるのかと実感しています。 依頼者さまから喜んでいただいたときはもちろん、過去に難しいと思っていた仕事がスキルを習得して解決できるようになった時は、強いやり甲斐を感じます。自分の中で仕事が“大好き”になったこと、毎日が刺激に溢れてワクワクすることが、最高に楽しいです。
以前、株式会社divの真子就有代表が『毎日、修学旅行に行く気分で過ごせたらいいですよね』とおっしゃっていたのですが、今の自分もまさにそんな状態だと思います。会社の愚痴を酒の肴にしている人をみると、意地悪ではなく、『そんなに嫌ならやめたらいいのに!こんなに毎日楽しいぞ〜』と内心思っています」
「自分の夢を諦めている人に、勇気を与えられたら」。小磯さんが目指すもの
フリーランスという選択肢で、自身の生き方を実現していく。小磯さんは自身の活動を通じて、「年齢や境遇で自分の夢を諦めている人に、勇気を与えられたら」と話す。
「自分のエゴになってしまうかもしれませんが、もしそういう人がいれば、一度きりの人生を精一杯自分のために使って欲しいと思っていますし、そのために私がお伝えできるマインドやノウハウがあれば、共有したり、応援していきたいです。
また、日本では教育の段階から“出る杭は打たれる”雰囲気が形成されている気がしています。私はもっと多くの若い人たちがリミッターを外して、イマジネーションやクリエイティブなことに時間を費やしてもいいんじゃないかと考えていて。少しでもデザインやクリエイティブが身近な存在になれば、日本の未来が少しでも色鮮やかに、より個性に寛容な雰囲気になるのではと思います。これから自身の活動を通じて、そういう方々に向けたロールモデルを作っていきたいです」
小磯さんは現在、学生に向けたオンラインのデザインワークショップを計画している。また、これらの課題解決に向けて、2021年に「御純(OSUMI)堂」を法人化し、クリエイターのプラットフォームを形成していく予定だ。
小さいことからでいい。フリーランスを目指している人へ
貴重な一度きりの人生を、精一杯自分のために――。
同じような境遇からフリーランスを目指している人々に向けて、小磯さんからメッセージをいただいた。
「フリーランスという横文字はとても自由で楽しそうに聞こえます。でも、自由には必ず責任が伴います。フリーランスで楽しいことだけできる人もいれば、楽しいことより苦しいことが多いなんて方もいるかもしれません。 ただ、まだ何もやっていない状況で、目指している仕事を経験したことがない人の助言に耳を傾けるのはナンセンスです。たとえば、海外に行ったことがない人の想像や知識をいくら聞いても全然ピンときませんよね。それならまずは自分の足で海外に行けばいいと思います。
最初、それがリスクだと思うならまずは小さいことから始めればいいのではと思います。一度きりの人生、死ぬときに『あぁ、自分は本当はこんなことがしたかったのに』と後悔しないようにしてほしいです。必要なのはほんのちょっとの勇気と行動です」
<TEXT/お雑煮>