カンボジア・プノンペン国際空港から2.5ドル!スラム街を行く空港鉄道に乗る

投稿日:2月 23, 2020 更新日:

空港線_車両

2018年、プノンペン市街地を結ぶ空港線が開業した

2018年、新たにカンボジア・プノンペン国際空港と市街地を結ぶ鉄道(エアポートシャトル)が開通した。このエアポートシャトルの特筆すべきは、何と言っても破格の運賃だ。従来、シャトルバスやタクシー・トゥクトゥクを使うと市街地まで10ドル近くかかっていたが、エアポートシャトルを使えばわずか2.5ドルで移動できる

カンボジアの鉄道は内戦を境に長い間運休になっていたため、かなり貴重な鉄道体験である。しかも、空港を出てから本線に合流するまでの間は軌道(道路と線路の併用区間)を走行する。つまり、東南アジアで数少ない「路面列車」を堪能することができるのだ。鉄道ファンの筆者としては、どうしても乗っておきたい存在である。

市街地まで2.5ドル。エアポートシャトルに乗ってみよう

プノンペン_空港_全体像

プノンペン国際空港

エアポートシャトルは空港の正面、駐車場の奥にある駅舎から発着する。エアポートシャトルを運営しているのはカンボジア国鉄こと「ROYAL RAILWAY」。紛争や沿線の治安荒廃を理由に休止していたが、2018年にプノンペン-シアヌークビル/プノンペン-ポイペト間の鉄道が復活。同時にこのプノンペン空港線も新線として開業した。

空港_駅

エアポートシャトルの発着する、空港駅

エントランスを出て、左手のフードコートに沿って歩いていくと、空港駅の駅舎が見えてくる。エアポートシャトルは6時から20時半まで、およそ1時間感覚で運行している。市街地のプノンペン駅までの所要時間はおよそ40分。シャトルバスに比べると速達性は劣るが、“カンボジアで鉄道に乗れるという事実がレア”なので、体験価値で十分元は取ってしまう(気がする)。

しかし、ガイドブックにもほとんど乗っていないので、開業から2年経つが認知度はイマイチだ。今回の乗車した列車も、利用者は筆者を含めて三人だけだった。駅舎も空港内にあるのに関わらず、駐車場に隠れていて存在感がない。勿体ない……。

チケット売り場_空港線

エントランスのチケット売り場は休業中

そんなこんなで、エントランスの近くに設置されたチケット売り場は休業中。いまは駅舎でのみ発券している。

カンボジア_発券

駅舎でチケットを発券してもらった。レシートみたい

駅舎の中に入り、カウンターに座っている駅員に2.5ドルを払ってチケットを発券してもらった。まるで中小企業の受付窓口みたいな簡素なカウンターだ。手渡されたチケットはレシートのようなペラペラのもの。駅員はチケットを発券すると手持ちのスマホで動画を見始めた。「なんとなく鉄道走らせてます」的なゆるいノリを感じるぞ。

エアポートシャトルは居住性抜群だった

鉄道_入線

到着が近づくと、ベストを着た誘導員が交通整理を行う

しばらくすると、鉄道のタイフォンが聞こえてきた。いよいよエアポートシャトルの到着だ。鉄道は京阪の浜大津駅のように、交差点を大きくカーブして入線するが、踏切や誘導灯のようなものはないため、何度も確かめるようにタイフォンを鳴らしながらやってくる。ホームに出てみると、ベストを着た誘導員が交差点の交通整理をはじめていた。

エアポートシャトル_接近

空港駅にエアポートシャトルが入線してきた

車両が姿を現す。

空港線の開業に合わせて製造された、メキシコ製のAS1000系だ。納期が大幅に遅れ、2019年ごろから運用を始めた模様。現在2編成が運用についている。

うーん、ダサい。ダサ良い。まるで新幹線のような流線型を持っているのに、なんだろう……全く速さを感じない。このハリボテ感満載のルックス、1両編成、とどめにディーゼル車ときたもんだ。キワモノ好きのフェティシズムをくすぐる、愛すべきダサさだ。やたら車体が大きく、日本の車両の1.2倍ほどはありそう。

頭端部には連結器カバーらしきものも確認できるため、増結にも対応できるようだ。この車両が旧型客車をつなげて走っているところを見てみたい……。

バロロロロロ、と、屋台の発電機のようなチープなエンジン音を響かせてホームに入線する。

エアポート_車内

エアコンが効いている車内。寒い

車内はオールクロスシートで、さながら優等列車の雰囲気だ。高級感のある背もたれの深い座席がついている。車内は広々として居住性も高いため、大荷物を持っている観光客にも便利かもしれない。エアコンもがっつり効いていて快適だ。というか、効きすぎて寒い……。

床板はカーペットが敷かれていて、なんとなく鉄道っぽさがない。というか、ものすごく家っぽい。

シャトル_運転席

AS1000系の運転席。なぜか花がさしてある

運転席周りはとてもチープ。何故か花がいけてある。乗務員室の扉はホームセンターで売ってそうな片開きのドアだった。やっぱ家じゃんか。

空港線のハイライト、併用軌道へ

併用軌道_シャトル

空港を抜けると併用軌道に入る。楽しい!

車両は定刻で空港駅を出発すると早速、空港線のハイライトとも言える併用軌道に入る。これは新たに敷設された新線で、カンボジア国鉄の本線までのおよそ1.5kmを結ぶ。東南アジアではかなり希少な「路面列車」体験だろう。

くたびれた町並みを、トゥクトゥクやバイクに抜かされながらゆっくりと走っていく。カンボジアの道路上をこうやって鉄道で移動するのはなんとも違和感がある。

シャトル_スイッチバック

本線に合流すると、スイッチバックしてプノンペン駅へ向かう。写真に見える線路が空港線

併用軌道を走り終えると、本線に合流して一旦停車した。運転手が反対側の運転席に乗り移り、スイッチバックする。

本線に合流し、プノンペン駅へ

プノンペン_本線

スラム市場を縫いながらプノンペン駅へ進む

途中、スラム市場をすり抜ける場所もあった。内戦のドサクサに紛れて生まれたもののようだ。本線とはいうが、長年の運休によって荒廃が進んでいる。線路のほとんどが単線で、線形も悪いのでせいぜい30kmほどしか出せない。

昨年の5月にはポイペト-タイ・アランヤプラテートの国際鉄道が開通し、鉄道による物流向上が期待されているが、この線路状態では貨物列車を走らせることは当分難しいかもしれない。鉄道はつくづく、国の成熟度が顕著に現れるインフラだ。

プノンペン_車庫

紛争前に使われていた車両基地が見えてきた

エアポートシャトルは車体を大きく揺らしながらプノンペン駅に向かって進んでいく。市街地に近づくにつれ、背の高い建物も増えてきた。しかしその大半は建設中のもので、まさに発展途上といった空気。

蒸気機関車_プノンペン

車両基地に、フランス製蒸気機関車の廃車体が佇む

検車庫を抜けると車両基地が視界に広がった。プノンペン駅まではあとわずかだ。残念なことに、留置されている車両は殆どが廃車体になっている。内戦前に使われていたであろう、フランス製の2-4-2蒸気機関車が線路上で虚しく朽ちていた。

プノンペン駅で国際列車に出会う

プノンペン駅

カンボジア-タイの国際列車が止まっていた

空港駅から40分、エアポートシャトルはプノンペン駅に到着した。プノンペン駅はセントラルマーケットやワットプノンから近く、市街地の中心部に位置する。

ホームの横には、タイからやってきたタイ国鉄の国際列車が入線していた。1974年に越境運行を休止して以来、およそ40年ぶりに国際列車がカンボジアにやってきたことになる。今のところ、タイへ向かう定期ダイヤは設定されていないが、近い将来この車両が、600km離れたバンコクまで再び乗客を乗せるのだろう。なかなか感慨深い……。

プノンペン空港と市街地を結ぶエアポートシャトル。2.5ドルという破格の運賃ももちろんだが、車窓も見所満載で面白いので、プノンペン空港を利用する際にはぜひ検討してみてはいかがだろう。

<TEXT/お雑煮>

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