大阪の象徴とも言える激安スーパーマーケット、「スーパー玉出」。
“1円セール”のチラシや、"クリオネ"・"うな重のタレをかけたご飯"など、奇抜な惣菜はSNSで度々話題になり、その名前はいまや全国区だ。
しかし、住民の間では古くから「玉出の惣菜は食あたりがする」と噂されているとかいないとか……事実、2016年には毒入りのフグが生鮮コーナーに売られていたこともある。
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スーパー玉出・新今宮店
良くも悪くも、あらゆるスーパーマーケットの中で群を抜いてファンキーな存在。今回はそんなスーパー玉出の中でもとりわけディープな店舗、新今宮店に行ってみた。
西成×玉出、夢のコラボレーション
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あいりん労働福祉センターの周辺にはビニールシートがひしめく
新今宮、そこは大阪きってのディープスポットだ。JR大阪環状線を挟んで南側には食い倒れの街・新世界、北側には日本一のスラム街“あいりん地区”こと、西成(釜ヶ崎)がある。
今回ご紹介するスーパー玉出・新今宮店があるのは新今宮駅の北側。しかも、店の斜め向かいには西成のシンボルである「あいりん労働福祉センター」を拝むことができる。
あいりん労働福祉センターはおよそ半世紀にわたって日雇い労働者に仕事を紹介していたが、2019年の3月31日をもって閉鎖。現在は施設の雨樋の下に労働者たちが仮住まいをしており、とにかく異様な雰囲気が漂う。
そんな限界立地に燦然と輝く「スーパー玉出」の煌々としたネオン、黄色い看板。激安スーパーなのに、なんだろう、この溢れる頼もしさは……。
それもそのはず、スーパー玉出の由来は西成区玉出に本社があるから。いま、僕は聖地巡礼に来ているワケである。
酒のツマミかよ。ガンギマリの惣菜コーナー
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白米にオカズを添えた"ご飯もの"たち
店内に入ってみる。導線は惣菜コーナー・精肉コーナー・生鮮コーナー・飲料類の順に続く。
入り口の正面、早速目に飛び込んでくるのは、“とりめし”や“豚肉ごはん”、などとパッケージされたご飯ものたち。よくみると、白米の上に小さな鶏フライや牛肉炒めが申し訳程度に添えられている。せっかく飯の上にオカズが乗っているのにドンブリと名乗るには物足りない、なんとも中途半端な存在だ。
価格はそれぞれ130円ほど。こういった食材が店頭に堂々と陳列されているあたり、なんとなく客層を察してしまう。これらの横には"おかゆ"も並べられていた。西成は着実に高齢化を辿っている。
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なんとなくピンとこない惣菜コーナー
惣菜のレパートリーの豊富さは、おそらく他のスーパーマーケットと比べても群を抜いている。しかも安い、とにかく安い。この棚で200円のものなど高級品の部類だろう。しかし……どうもピンとこない。
"豚玉"に"若鶏肝しぐれ煮"、"肉じゃが"か。なんだろう、このモヤモヤ感は。この惣菜コーナーからは食卓が見えない。家族が見えてこない。
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ボロニアソーセージ。なかなか旨そう
"ボロニアソーセージ"なんてものもある。ボロニアソーセージってなんだ。初めて見たぞ。SPAMみたいなものか?マヨネーズが添えられているあたり、何かを察してしまった。
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惣菜というよりか、酒のツマミだ
"サケ塩焼き"に"ブリ照り焼き"、"ネギ穴子天"に"チジミ"。スーパーに入ってから感じていた違和感は確信に変わった。
そうだ……これ全部、酒のツマミじゃねえか!!!!
惣菜じゃない。これ、ツマミだよ!!ここで惣菜と白米とワンカップ買って一杯やるんだろ!
見えてしまった。この惣菜コーナーを見ていると、視界にありありと、西成の労働者の一日が再現される。このスーパー、既にガンギマリだ!!!
哀愁ただよう精肉・生鮮コーナー
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ハム・ソーセージコーナーには菓子類が浸食し、カオスな光景が
精肉加工品コーナーは悲しいかな、メインのソーセージ・ハムは3割程度しか陳列されておらず、棚の残りにはおかきやクッキーなど、菓子類のダンボールが山積みになっている。ふと見上げると「特別大奉仕!大サービス、安い安い。おかき餅・各100円」というポップが。売るべきものを間違えてる。
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精肉・生鮮コーナー
そして、精肉コーナーと生鮮コーナーへ。クリオネもなければ、毒フグもいない。意外と普通な品揃えだ。そういえば、クリオネってどんな味がするのだろう。生しらすみたいな感じかな。生姜醤油でちろっとやると旨そうだな。
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季節柄か、寄せ鍋が大人気のようだ
生鮮の棚には寄せ鍋セットが売られている。一人前、ラスト1個。この時期は鍋をつつきたくなるよなあ。
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"1パック99円"なんてのを期待していたのだが…
刺身類の売れ行きはイマイチ。1パック198-298円程度なので、それほど割安感は感じない。うーん……もしかすると、新今宮店のオーラスは冒頭の惣菜コーナーなのかもしれないな。出オチ感が強くなってきた。
45円の滋養強壮ドリンク、レジ前のワンカップ
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昇龍、45円。既にネーミングが良い
他に何かめぼしいものが無いかと飲料コーナーへ。棚を隅々まで見渡していると……あった!これだ!
昇龍赤まむし、45円!!!
西成といえばあいりん地区だが、今池に向かって下れば日本最後の遊郭・飛田新地がある。色遊びをする男性たちは玉出でこの滋養強壮ドリンクを買って、凄まじく昇り龍するのだろう。
そしてこの価格よ。あいりんと飛田を最大公約数で感じるではないか。
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レジ前にずらりと並んだワンカップたち
レジ前にはずらりとワンカップが陳列されていた。あらゆる玉出の中でもここにワンカップを並べているのは、流石に新今宮だけでは……。レジ前というと、スーパーで最も人が滞留する場所だ。おそらく、食材を買い込んだ労働者がレジ待ちの間に反射的に放り込むのを想定しているのだろう。素晴らしい顧客導線分析。
街を知るから為せる技。玉出・新今宮の華麗な品揃えに惚れた
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街の色をしっかり取り込んだスーパーだった
惣菜コーナーのレパートリーといい、昇龍といい、レジ前のワンカップといい、期せずしてマーケティングのお手本を見せつけれらてしまった。街に愛された店だからこそなせる術だ。おそるべし、スーパー玉出・新今宮店。
そうして僕はこの店を、一本の昇龍とともに後にする。残念ながらいきり勃つことはなかった。
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我が昇龍がいきり勃つことはなかった
<TEXT/お雑煮>